不動産が仕掛ける新しいコミュニティ。須磨のシェアキッチンが目指す未来とは?
リーフクリエーションが新しい事業を始めました!
その名もシェアキッチン「SUMANOBA(スマノバ)」。
シェアキッチンとは、複数の飲食店や料理人が共同で使うキッチンのこと。JRと山陽電車の須磨駅からすぐの場所にあります。
スマノバは、1日を昼の部・夜の部と分け「月曜の昼の部」というふうに最小単位「半日」でスペースを貸し出します(複数枠の契約も可能です)。
飲食店を始めてみたいけど、いきなり物件を借りるにはハードルが高い……という人にとっては、初期費用やリスクを抑えて腕試しができるのがメリット。一方で、地域の人にとっては日替わりで違う飲食店が出店するワクワクがあります。
そう、シェアキッチンはお客さんもお店もウィンウィンな、新しい飲食店のあり方なんです。
それにしても、なぜそれをリーフクリエーションが仕掛けることに? ぶっちゃけ、不動産屋として儲かるの??
そんな疑問に答えるべく、弊社代表・森下政人が、事業にかける熱(苦し)い思いを語りました。
――わあ! ハワイを思わせるような明るくておしゃれな空間ですね。
森下 ありがとうございます。須磨の海のイメージし、地域の人たちが気軽に立ち寄って交流しやすい雰囲気をめざして作りました。


――そもそも、なぜシェアキッチン事業を始めようと思ったんですか?
5~6年前にこの物件を取得したことがきっかけです。当時はここで居酒屋が営まれていたんですが、お店の方が高齢になり、コロナもあって閉めることになりました。
次にまた誰かに貸すことも考えましたが、弊社のコンセプトは「コミュニティを大切にする不動産屋」。空き物件になったことをチャンスととらえ、シェアキッチンを始めてみようと思い立ったんです。
自分の店を持ってみたいけれど初期費用がネックでなかなか実現できない人や、本業がありフルコミットはできないけれど週1日程度なら……という人たちに、ステップアップの場として「スマノバ」を活用してもらえるとうれしいです。
1階で注文して2階で食べるスタイルですが、1階にはカウンタースペースもあるので、仕事帰りに軽く1杯だけ、という使い方もできますよ。


――先ほどおっしゃった「コミュニティを大切にする不動産屋」とは?
不動産業というと「住まないのに投資目的でマンションを買う」とか、なんだかお金ばかり追い求めているイメージがありませんか?
たしかに今まではそういう金銭的価値ばかりが重視されていましたが、これからはもっと社会的価値が重視されるような時代になると思うんです。
――社会的価値とは、具体的にどんなものでしょう?
その土地の文化や歴史、地域の人と人のつながり、今ふうに言えば「コミュニティ」でしょうか。
たしかに今は、金銭的価値のあるものにしか、人員や予算が割かれない世の中です。
でも、これからは人口が減ります。ボリュームゾーンの僕たち「団塊ジュニア」世代も、もう50歳。あと10~15年後には、社会の先細りを肌感覚として明確に感じられるようになるでしょう。

人口が減ると当然、土地が余るので不動産の値段も下がります。だからこれからは、金銭的価値を追い求めているだけではだめで、それ以外の価値を作り出さなければいけないんです。
おそらく多くの人は、経済的(=金銭的)な成長を前提とした今の社会モデルが、限界を迎えつつあると感じていますよね?
今はちょうど、モノやサービスの価値が金銭の一辺倒から、社会的価値でも測られる時代にシフトするターニングポイントなのではないでしょうか。
そういう未来をつくるための場として、本当に小さな一歩ですが「スマノバ」を作りました。
――なるほど。キッチンの利用者(出店希望者)は絶賛募集中!なんですよね。どんな人に入居してほしいですか?
いま言ったような、僕の思いに共感してくれる人に来ていただきたいですね。
自分の夢をかなえるために頑張りたいとか、地域のために何かしたいという人。あとは人を大事にできる人、かな。
今まで主婦(夫)で家にいて、一歩踏み出したいけどフルタイムは難しいという人のチャレンジや、子ども食堂なども大歓迎です!
とにかく、来た人から笑顔が広がっていくような場所にしたいなと思って。

もう少し利用者が増えれば、利用者どうしの交流会をしたいと考えています。
Aさん、Bさん、Cさん、Dさんが入ってくれたとしたら、今月はAさんのお店でご飯を食べる会、来月はBさんのお店で……というふうに。
そしてそこには、地域の商店街のみなさんも招待できたらいいなと。
せっかく須磨の一員になるんですから、「スマノバ」の枠にとどまらず、商店街の困りごとを解決するためのワークショップなど、何か地域のお手伝いができたらいいなと考えています。
――たしかに、近所づきあいって「何もかも筒抜け」みたいなのは嫌ですけど、ちょっと挨拶できて何かあったときに助け合える程度のつながりを求めている人は、多いと思うんですよね。
でも今の時代って、普通に住んでいるだけではそのつながりさえ作りにくいじゃないですか。挨拶するのも勇気がいるというか。そこに、こういうコミュニティを目的にした場が一つできると、地域の温度が上がりそうです。
僕は場を整えることしかできませんが、周りのみなさんが少しずつ手伝ってくれることで、地域はもっと楽しくなるだろうなって。今回の須磨でうまくいったら、垂水や長田など他の場所にも広げられるかもしれません。
そうしたら神戸全体がもっと元気になる。この「スマノバ」プロジェクトは、出店者のみなさんはもちろん、僕たちにとっても“スモールスタート”なんです。

さっき「不動産業はお金ばかり追い求めているイメージ」という話をしましたが、本来の不動産屋は、その地域のこと・地域に住む人のことを考えて「場づくり」をするのが仕事だと思うんです。
もちろん、そのマインドを持った不動産屋さんもいらっしゃいます。
でも大きな会社の営業担当だとノルマに追われ、数字を上げることに必死になりがちですよね。「どっち向いて仕事をしてるの?」と言いたくなっちゃう。
幸い、僕は自分の会社なのでお客さんのほうを向いてお客さんのために仕事ができています。
そして、お客さんには店舗経営者も多いので、その先にもお客さんがいます。だから、目の前のお客さんの、その先まで考えるのが不動産屋の仕事だと思うんです。
今回の「スマノバ」は、本来の不動産業者としての「場づくり」をもう一度見つめなおしませんか?という、同業のみなさんへの問いかけでもあるのかもしれません。
――スマノバの出店者が納めるのはスペースの利用料だけで、「売り上げの〇%」みたいなマージンはないと聞きました。ぶっちゃけ、リーフクリエーションはそれで儲かるんですか?
貸し出し枠が全部埋まれば何とかやっていけるんですが、埋まるまで少なくとも1年はかかるでしょうし……。まあ他の事業もあるし、この事業は「10年かけて改装費を回収できたらいいかな」くらいに考えています。ハハハ。
それこそ、地域が元気になるという「価値」が出るなら、数字(金銭)には表れなくてもじゅうぶんリターンになるんですよね。
みんなが幸せになれば自分にもいずれ返ってくるかな、と「三方よし」の精神で大らかに構えています。このプロジェクトはある意味、僕にとっての社会貢献かな。
――近江商人スピリットですね。
なんだか最近、「自分だけよければいい」という人が増えているように感じるんですよね。
さっき合楽さんが言っていた挨拶だって、親は子どもに「知らない人に話しかけちゃだめ」と言うじゃないですか。でも本当は、みんなが挨拶をし合うのが一番の防犯になるはず。
いろんな意味でリスクを避けるから「自分だけがよければ」という社会になってしまう。そう教えられた子どもが大人になったら、日本はどうなってしまうんだろう?
大災害が起こったとき、他の国は物資の奪い合いになるのに日本はきちんと並んで助け合って……とその国民性が褒められるじゃないですか。
早くしないと、日本のあの良さがなくなっちゃうんじゃないかという危機感が、僕の中にはいつもあります。
不幸になりたい人なんていないはずで、みんな「幸せになりたい」と思っているんですよ。でも「幸せになりたい」の中に「自分が幸せならいいや」の数が少しずつ増えているような……。
国や社会って、一つ一つのコミュニティの積み重ねだから、小さいところからアクションを起こすしかないと思うんですよね。そして、みんなの幸せを考えることが、自分の幸せにもつながっていく。
僕が話したことに共感してくださったら、「スマノバ」に来てもらえるとありがたいですし、そうでなくても、ちょっと近所の人に声をかけるなど、小さなアクションにつなげてもらえるとうれしいです。
*聞き手:神戸在住ライター 合楽仁美